インタビュー
釣りは地域の素の顔を知る入り口 漁業×ワーケーションに広がる可能性
Posted : 2023.10.08
from : 富山県富山市
天然のいけすと評されることもある富山湾。海に出るとすぐ深くなるため、漁場が陸から近く、獲った魚を新鮮な状態で持ち帰れる環境は、釣りにもピッタリです。
そんな富山を拠点に「釣り×地域活性化」事業を担う株式会社ウオーを立ち上げた中川めぐみさんは、「富山は“釣り”領域では、まだまだ伸びしろがたっぷりあると思っています」と語ります。
釣りは難しい趣味ではなく、初心者で道具がなくても楽しめるアクティビティだと気がついてから、ドハマリしたという中川さん。「富山はつまらない」と思い込み、大学進学を機に上京して、IT系企業でバリバリ働いていた中川さんが釣りと富山の魅力に気が付いた経緯と、漁業×ワーケーションの可能性について伺いました。
中川めぐみ(なかがわ・めぐみ)さん/富山県出身。大学進学時に上京し、卒業後は製薬会社に就職。GREEで新規事業の立ち上げ、ビズリーチで広報などに関わる間、趣味としてはじめた釣りの魅力に取り付かれ「釣り × 地域活性化」事業で独立。2022年、東京を拠点としていた社団法人から、富山を拠点とする株式会社ウオーとして再起業。
初心者でも道具を持っていなくても釣りは楽しめる ワーケーション体験そのものな足跡
私が釣りをするきっかけとなったのは、当時勤めていたIT企業が開発・運営する人気釣りゲームをリアルなECサイトや予約サイトとつなげる事業を提案したことです。事業を提案しながらも、私をはじめチームの誰も釣りをしたことがなかったので、市場調査と称して釣りをしてみたのが初の釣り体験でした。それまで釣りは、専門性の高いハードな趣味だと思っていたのですが、やってみたらすごく気軽に楽しめて、難しい趣味ではなくアクティビティにもなり得るのだと気がついたんです。
旅行で地方へ行った際に、各地域ならではな歴史や文化に感動するようになり、人気コンテンツがどんどん生まれては消えていく東京よりも魅力的なのではないかと感じ始めていたタイミングでした。しかも釣船に乗ると、船長や乗り合わせた地元の方から行きつけのお店や地域の魅力を教えてもらえ、釣った魚を地元のお店に持ち込むと、それがきっかけで常連の方と一緒にお酒を飲めるなど、釣りをすることで現地のリアルに触れて楽しめることを肌で感じたんです。
中でも印象的だったのが、中国地方のある島での経験です。漁師もされているという船長さんは、釣りを教えるのも漁場の見定めもすごく上手な方で、すぐにたくさん釣れて楽しんでいたんです。そうしたら、まだ時間が残っているのに「たくさん釣れたし帰ろう」と陸に戻ってしまって、代わりに行きつけの居酒屋で宴会を開いてくれました。そこでは、他の漁師さんがお土産でサザエを持ってきてくれたり、そこで出会った方に誘っていただいて、翌日一緒に海に潜ったりして、すごく面白かったのを覚えています。
地元の方と交流して、いろいろな刺激を得られる、ワーケーションのツアーコンテンツにそのままできそうな経験でした。それからもたくさんの地域に行って、取材がてら釣りをして食べて…。今振り返ると、無意識にワーケーションしているような感じだったと思います。
旅行×釣りは、すごく相性がよくて関係人口(※)を増やせるし、地域の本当の魅力を味わえるので、これを事業にしたいと感じたのが起業に至る最初の一歩でした。
※関係人口:そこに住む定住人口でも、観光や旅行で訪れるだけに交流人口でもなく、地元のヒトとさまざまに関わる人口のこと
ステキなヒトたちがいることに気が付いて見直した富山の魅力
今でこそ富山で起業して、月の3分の1は富山にいるようになりましたが、子どものときには「富山は何もない」と思っていました。地方創生に興味を持つようになり、前職で地方創生室の広報として、地域で活躍される方のサポートをさせていただく中でも、正直富山にあんまり魅力を感じてなかったんですよね。独立した5年前の時点では、私の勉強不足で富山の面白いプレーヤーも全然知りませんでした。
富山を意識したタイミングは、2021年の後半頃です。たまたま東京で出会った方から、「最近、富山面白いヒト出てきてるじゃないですか」と言われたのを機に、富山にも通ってみたら、会う人、会う人、面白くって驚きました。
勝手に「富山はチャレンジがしにくい場所だ」と思いこんでいたのですが、今、注目されているプレーヤーは皆さま、すごくしなやかで多様性をもっていて、許容力も高い方ばかりです。いろいろなヒト・コト・モノを巻き込んで、さまざまに活動されていることを知ったときは、衝撃でしたね。
海も漁業も魅力たっぷりな富山
富山の素晴らしさは、ヒトだけではありません。海も、穫れるお魚もすごいんです。富山湾は、天然のいけすと呼ばれるほど、たくさんの種類の魚がいて、海に入るとすぐに深くなるので、漁場までの距離がすごく近いのが特徴です。
魚は、海から揚げた瞬間から劣化して鮮度が落ちていくものなので、船に乗って片道3時間かけて漁場まで行かないとならないものと、5分ほどの場所で釣れるものとでは、鮮度は大きく変わってしまいます。富山の魚は、ピチピチのままでもおいしいし、鮮度が素晴らしい状態から神経締めなどのお手当をできるからこそ、熟成などさせたものも、とってもおいしい!これは富山の大きな魅力です。
また、白えび漁では、50年以上前からSDGsにつながるプール制を取り入れて、持続的に漁ができるようにしています。プール制とは、それぞれの船で獲った白えびをひとつのプールに入れるように合算して、全員で売上を分ける方法。穫れる量が少なくなったり、異変を感じたりしたときには、一斉に休漁するなど、みんなで協力してサステナブルな仕組みを取り入れています。
さらに、白えびの価値を高めて白えび漁を未来に残すための活動をしているのが、富山湾しろえび倶楽部です。メディアに出たり、衣類メーカーとコラボした靴下を販売したり、白えびコロッケの開発に協力したり、白えびの価格を上げるようなPRにつながる活動をしています。40代くらいの若手の面白い方たちで構成されていて、私もすごく注目している方々なんです。
企業研修とも相性のよい漁業×ワーケーション
富山湾しろえび倶楽部の方たちとは、私もコラボレーションさせてもらいました。先日も都内のITベンチャーに勤めるエンジニアの方、60名ほどの社員研修をコーディネートした際に、しろえび倶楽部の方たちに来てもらってお話いただきました。
一部の方は白えび漁船にも乗せてもらって、キラキラの穫れたて白えびを食べてみたり、コワーキングスペースもある「トトン」というサステナブルなものづくりに触れられる施設でプール制の話などをしてもらったりしました。
新しい取組みを企画すると、時に価値観の違う方々の説得や調整が課題となりますが、それは、漁業の世界でも、ITベンチャーでも同じです。エンジニアの方から「新しいことを始めるときに出る反対意見には、どう対応してきたのか」という質問があがると、具体例をあげて説得方法を教えてくださって、それがすごく響いている様子が伺えました。
一次産業の現場は、日々変わっていく状況の中で、命をかけて働いていらっしゃいます。だから、さまざまな出来事に対しての反応や、工夫の仕方、やりきる力がすごくあるんです。漁業の世界とそれ以外の世界は異なるものですが、お話していくと、気づきや感動がたくさんあります。これから、こうした関わりを増やしていきたいな、と思っています。
釣りをしながらワーケーションするなら富山は最高のスポット
富山は海産物に恵まれており、魚の扱いがうまい方も多いです。だからご飯がとってもおいしいし、交通の便も意外にいいんですよ。新幹線が開通して、東京から2時間ちょっとで着くようになりました。
だから、受け入れ体制を整えるだけで、釣りをする観光客やワーケーションの方がすごく増えると思っています。釣りは、魚を釣ること自体を楽しめるだけでなく、地元の方とコミュニケーションをとって色々なことを学べる機会も多いので、個人ワーケーターの方との相性も抜群です。漁業分野で活躍している方も多く、非日常生のある企業研修にもピッタリで、富山は伸びしろだらけだと思っています。
これからは、富山での釣り×ワーケーションや漁業×企業研修を増やしていくだけでなく、漁業の魅力や課題をもっとアピールできるような活動をしていきたいですね。富山で漁業やワーケーションに興味のある方は、株式会社ウオーにぜひお声がけください。
※取材は2023年9月上旬です。
記事の制作に関わった方をご紹介
インタビュアー:古地 優菜(こち・ゆうな)
フリーライター/一般社団法人日本ワーケーション協会(理事)など
奈良県出身、長崎県諫早市在住のフリーライター。転勤族の妻であり2児の母。転勤に左右されないキャリアを築くため、2013年にクラウドフリーライターとして独立。ライター事業の傍ら転勤先の地元の方と交流し、まちづくりや地域活性化を目的とした事業・活動にも参加。また日本ワーケーション協会に参画し、ワーケーションを新たな働き方・生き方・暮らし方の形のひとつとして全国に普及させるために各地で活動中。
ライター:土屋 菜々(つちや・なな)
2012年夏ライターデビュー。2014年からは、編集者・ディレクターとしても活動中。ライフスタイルに関わる記事を中心とし、特に幼稚園教諭免許、保育士資格取得経験を活かした幼児教育・保育分野の専門的な記事作成が可能。 2011・13・17・20年生まれの3男1女を抱えて、仕事と育児に奔走している。趣味は、アメリカ映画&ドラマ鑑賞。