インタビュー

佐藤将貴さん・みどりさんにインタビュー

子育てを機に富山へ移住 夫婦で活躍の場を広げる

3,000メートル級の立山連峰に抱かれた富山県立山町。みどりさんが2014年に地域おこし協力隊として就任したことをきっかけに、佐藤ファミリーは立山町に移住。現在も家族4人で暮らしています。

現在、みどりさんは陶芸家・NPO法人の代表・子育てという3足のわらじで活躍しています。また、それを横でずっと見てきた将貴さんも、サラリーマンとして勤めていた会社を退職して新しい道に進むなど、夫婦それぞれで活躍の場を広げています。

二人が富山に移住した決め手や、地域のこれからのことを伺いました。

 

 

佐藤将貴(さとう・まさき)さん・みどりさん/二人とも兵庫県神戸市出身。将貴さんは勤めていた会社を退職後、2020年に一棟貸しの宿「埜の家」のマネージャーに就任。みどりさんは2017年、クラフトイベント「立山Craft」を運営するNPO法人「立山クラフト舎」を立ち上げる。2019年から陶芸家としての活動も再開。

 

出産を機に富山へ移住

(みどりさん)立山町に来る前は、愛知県瀬戸市で陶芸を学び、埼玉県で陶芸家として活動していました。これまで引っ越しもたくさん経験してきたのですが、子育てをするなら田舎がいいという思いで、富山県の南砺市、そして上市町・立山町の移住ツアーに主人と参加しました。

立山町の新瀬戸地区は、愛知県瀬戸市に由来のある「越中瀬戸焼」が有名で、5名の作家さんが「かなくれ会」を結成して魅力発信に力を注いでいました。そんなこともあり、立山町の役場から後日「新瀬戸地区に地域おこし協力隊として来ませんか?」とお電話をいただいたのが、富山へ移住するきっかけでした。

決め手になったのは景色です。南砺市の移住ツアーの帰りに高速道路で見た立山連峰がきれいで、「また来たい」と思ったことを覚えています。また、阪神淡路大震災・東日本大震災を経験していたので、災害の少なさも決め手の一つでした。

(将貴さん)僕の最初のきっかけは、上市町が舞台のモデルになった映画「おおかみこどもの雨と雪」を見て感動したことです。

あとはもともと山登りが好きだったので、山が近いことも熱かったですね。僕らが子供時代を過ごした兵庫県神戸市も、山と海が見える街で。富山のほうがスケールは大きいですが、山と海が近いという地形に、どこか親近感を感じました。

 

それぞれの地域おこし

(みどりさん)私が地域おこし協力隊として来た新瀬戸地区は、立山町の東部にある220世帯しかない集落。私が来た年にはすでに保育園はなくなっていて、翌年には小学校の休校が決まっていました。

そんな厳しい状況のなか「自分にできる地域おこしはなんだろう?」とずっと悩んでいたのですが、お隣石川県で開催されているクラフトフェア「のとじまてまつり」に行ったことで、出店側であったイベントと地域活性が結びつきました。

そしてはじめたのが「立山Craft」です。出店者募集から地道に準備を進め、2015年に第一回目を開催しました。来場者数は1,000人が目標だったところ、蓋をあけてみたら2日間で8,000人もの人が集まりました。それから地域おこし協力隊としての任期終了後も毎年開催していて、今では出展倍率が約3倍と、作家さんからも人気のクラフトフェアに成長しました。

また、子育てで休止していた作陶活動も、2019年から再開しました。10年くらい前は人形を中心に作っていたんですが、最近は人に料理を振る舞うことが増えたので大きな食器や、大きな空間に合う壺など、おおらかな作品が多くなりました。立山町に住めば住むほどに、地域性が取り込まれていったらいいなと思います。

 

立山町の豊かな環境が、作品にも影響している

 

(将貴さん)僕自身はもともと、産業業界でサラリーマンをしていました。奥さんが地域で活躍をする姿を見たり、そのつながりでいろんな人たちと関わるなかで、自分も人生一度きりだから、やりたいと思ったことをやらなければならいないという思いが募っていました。

2019年頃から、自分が住んでいる里山地域の資本を活用した経済循環を、どうやったら作れるか模索し始めました。それから会社を休んでは県外に行って、それぞれの土地でまちづくりをしている人に会いに行くようになりました。どんどん思いを抑えられなくなり、ついに15年続けた業界を退職。これまでの仕事とは畑違いの、富山県内のまちづくり会社に入社しました。

 

しかしコロナ禍に直面し、子供たちの幼稚園や小学校も休みになったことで、自分も休業届けを出しました。思うように働けなくなったとき、地域の公民館の方から「里山にマウンテンバイクのコース作らないか」と言われたことを思い出し、今しかないと薮道調査をはじめました。手入れされていなかった道の先には、牧場の跡地や渓流釣りの穴場など、たくさん宝になる場所があることを発見しました。これは面白いことができると確信して、まずは一番人里から近い「大観峯」までの道を一人で整備しはじめました。

その過程で、立山町にある株式会社前川建築の前川社長との出会いがありました。前川建築が運営する「埜の家」を、2020年10月から築130年の古民家を一棟貸しの宿にするというお話をいただき、僕がマネージャーとして就任することになりました。

 

築130年の古民家を改装した「埜の家」

 

これから地域の点と線を結ぶ

(みどりさん)上東地区は、順々に小学校や中学校の休校・廃校が続き、「この地域はこのまま終わるのかな」と誰もが感じていたと思います。
しかし、近年は新しい動きがたくさんあります。2011年に越中瀬戸焼の「かなくれ会」がイベントをはじめ、2014年に「埜の家」が誕生。2015年から「立山Craft」が開催され、2020年に「Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)」と、旧谷口小学校を活用したIT施設「谷口集学校」が誕生。そして2021年にはドンペリニヨンの元醸造最高責任者がつくる酒蔵「白岩酒造」が完成します。

私がやってきた「立山Craft」の取り組みが、直接その後の動きに繋がっているかはわかりませんが、人の気が集まるきっかけになっていたら嬉しいですね。

(将貴さん)現在「埜の家」を拠点に、Eマウンテンバイクで里山と村をめぐる「里山マウンテンバイクツーリズム」を準備しています。今ある道に古い登山道や林道などをいくつか組み合わせると、うまく上東地区の点と線がつながることに気づいたんです。さらにマウンテンバイクを使って上東地区をめぐってもらうことで、関係人口を増やし、よりたくさんの人に上東地区の魅力を感じてもらいたいと思っています。

 

子供ものびのびと遊べる、子育てにも適した環境

僕らが住んでいる家は、立山連峰から富山湾の向こう側の能登半島まで見渡せる、とっても見晴らしの良い場所です。四季がハッキリしているので、ゆっくりとした時間の流れのなかでも、ちゃんと時が流れていることを感じられます。そんな僕らの価値観を変えてくれた里山の環境を、ぜひみなさんにも体感してもらいたいですね。

 

 

 

※取材は2021年2月下旬です。