インタビュー

「アグミライミズ」「hiraku」眞野万梨さんにインタビュー

老舗花屋がコワーキングスペースの運営へ。人と人を繋げることで広がる「バラのテーマパーク」の夢

富山県射水市に2022年に開設されたコワーキングスペース「アグミライミズ」には、室内の隅々に観葉植物が飾られています。ワークスペースといえば、コピー機などが置かれただけの無機質な空間が少なくないなか、植物の緑に囲まれて、心が癒されるオフィスになっています。

入り口で営業するのは、無人の花屋。通常の店舗には並ばない、規格外の花も販売しています。また、コワーキングスペースの月間会員になると、毎日、オフィスに飾っている一輪挿しの花を持ち帰れるというユニークな特典を得られます。

植物に溢れたこのコワーキングスペースを運営するのは、株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーション。北陸三県を中心に、花屋「花まつ」を展開するほか、生花教室や生花装飾などを手がける、地元では有名な花会社です。

花屋の運営がメインの事業であるジャパン・フラワー・コーポレーションが、なぜコワーキングスペースを運営しているのか。同社で運営する、射水市のコワーキングスペース「アグミライミズ」、富山市のコワーキングスペース「hiraku」に携わる眞野万梨さんに伺いました。

 

 

眞野万梨(まの・まり)さん/富山県出身。富山大学人文学部卒業後、新卒で株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションに入社。店舗スタッフを経て、エリアマネージャー、スクールインストラクター、ブライダル装飾、ギフト商品企画、バイヤーなどを経験。現在4人の子育てをしながら、人事の仕事と兼務で新規事業の仕事にも取り組む。

 

 

突然の異動に戸惑うも、「人と人を繋ぐ仕事」の価値を実感

私は2022年4月、ジャパン・フラワー・コーポレーションの新規事業担当となり、コワーキングスペースのコミュニティマネージャーを任されました。それまでは入社以来、一貫して花屋     「花まつ」の店舗や本部で働いており、主にギフト商品の企画や仕入れ、ギフト注文の対応を行なってきました。

花屋と聞くと、切花や鉢物を売っているようなイメージが強いと思いますが、そうした店頭で販売する花だけでなく、プリザーブドフラワーやソープフラワー、花瓶、雑貨など、花にまつわるあらゆる商品を扱っています。

 

 

そうした花屋の本部の業務から、まったく畑違いのコワーキングスペースの運営を任されましたが、当初は店舗と同じような業務だろうと、気軽な気持ちで引き受けました。

しかし、やってみると全然違う(笑)。社長からは、「人と人をつなぐ仕事だよ」と言われましたが、自分が表に立ってイベントなどを運営する立場となり、社長の言葉を身をもって実感しています。

 

 

弊社がコワーキングスペースを立ち上げた理由は、人口減少が続く富山を盛り上げたいという社長の松村吉章の思いがきっかけでした。地方創生のカギは「人」。社長は、富山に関わってくれる人を一人でも増やしたいと考え、そのための拠点としてコワーキングスペースを立ち上げることにしたのです。

 

 

2022年4月にコワーキングスペース「アグミライミズ」を射水市で、「hiraku」を富山市でオープン。地元の人をはじめ、今では県外からワーケーション目的で来訪する人も、コワーキングスペースを利用してくれています。

 

 

今後も富山に興味があり、富山で働きたいという人はもちろん、クリエイティブな仕事をしているフリーランス人材、あるいは何か新しいことを始めたいと考えている人など、多様な立場の方々に利用していただきたいですね。普段交わらない人が交わり合うことで、新しいことが生まれるような場所になればいいなと期待しています。

 

 

イベント開催で人の交流が活発に。世代間交流も実現

 

人が交わる場所になるために、コワーキングスペースでは積極的にイベントを開催しています。hirakuで毎月開催しているのが、「とやま会議」というイベント。毎回、富山で活躍する方を登壇者として招き、その活動内容などを紹介しながら、参加者同士の交流を促す催しです。

 

 

「とやま会議」の特長は3つ。

  1. 登壇者はあらゆるジャンル・世代から選ぶこと

とやま会議の狙いは、富山の面白いヒトとコトを、あらゆる角度からつなぐことです。そのため既存のコミュニティの枠を越え、さまざまな分野で活躍する人たちが登壇し、参加者とつながり、街全体の盛り上がりにつながることを目指しています。

  1. 飲みながら、食べながら楽しむこと

イベントは2部構成となっており、1部のトークライブはドリンク片手に、2部のパーティーはご飯を食べながら、参加者に楽しんでいただけます。堅苦しい会議とは異なり、友人とご飯を食べに行く感覚で気軽に参加でき、登壇者と参加者が一緒になって楽しめるのが特徴です。

  1. 次につながるイベントにする

登壇者が話し、参加者が聞いて終わりという、一方通行のイベントにはしたくありません。できれば、そのイベントをきっかけに、参加者の行動が変化し、その参加者が次回以降の登壇者に回るような、そんなイベントにできればと考えています。登壇者は次は参加者に、参加者は次は登壇者にという、全員参加型のイベントを目指しています。

 

この「とやま会議」は2023年1月から富山市のコワーキングスペースhirakuで始めましたが、3ヶ月に一度、同様のイベントを射水市のアグミライミズでも開催しています。アグミライミズのイベントでは、登壇者を「射水市の人」を中心に構成しており、富山市中心部に位置するhirakuと違い、アグミライミズは車でしか訪問しにくい場所にあります。それにも関わらず、毎回40人ほど来訪してくれるのは嬉しいですね。ここ最近、富山大学の学生も多く参加してくれていて、世代間交流の場となっていると感じています。

 

 

アグミライミズの特徴は、地元ケーブルテレビともつながりが深いこと。月に一度、アグミライミズで番組収録を行っています。そのため、ケーブルテレビに出演したゲストが、収録をきっかけに「とやま会議」にも登壇してくださることがありました。

またこの方は射水市でネギや桃を育てる農家の方だったのですが、栽培した桃のジュースを花屋のギフト商品として販売することになりました。このようにして、地元の方とも新しいつながりを持つことができ、コラボする動きが出始めています。

「とやま会議」は毎月1回の頻度で、アグミライミズで3ヶ月に1度の頻度で開催しています。これからも、この頻度で質の高いコンテンツを提供し続けていくことが目下の目標です。

 

 

射水市の新たな特産品「食香バラ」を起点に広がる夢

アグミライミズ、hirakuというコワーキングスペース運営以外に、弊社が最近始めた新規事業が「農業」です。これまで花の流通を手がけてきましたが、自社での栽培は行ってきませんでした。しかし、1年前からチューリップや菊の栽培を開始。今ではサツマイモの栽培にも取り組んでいます。また、「いみず食香バラ研究会」が栽培する食用のバラ「食香バラ」の商品企画にも携わっています。

 

 

その農地はアグミライミズの近隣にあります。実は射水市は「射水市アグリテックバレー構想」を推進しており、アグミミライミズとも連携して、既存の稲作に変わる新しい農業の育成を目指しています。「食香バラ」も、そうした新しい農業の試みの一つです。

 

(出典:射水市アグリテックバレー構想より)

 

さまざまなイベントを開催することで、アグミライミズをいろんなアイデアを持った外部人材が集まる拠点にしたい。そこでの人との交流をきっかけに、老舗花屋の利点を生かしながら、射水市が進める新しい農業にも寄り添っていきたい。それが弊社が掲げている構想です。

 

 

さらに、ゆくゆくはコワーキングスペースだけでなく、ゲストハウスやレストラン、バラにまつわるテーマパークも作りたい。アグミライミズの一帯を農業リゾート化したいというのが、弊社社長の夢です。

壮大な夢ですが、コワーキングスペースもそうした大きな目標を見据えて開設したもの。私自身、イベント運営を通じて、その夢に少しでも近づけることができたらと思っています。

 

アグミライミズのHPはこちらから

「hiraku」のHPはこちらから

 

※取材は2023年8月です。

記事の制作に関わった方をご紹介

集者・ライター:児玉真悠子(こだま・まゆこ)

編集者・ライター、株式会社ソトエ代表取締役、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・ フリーランス協会 地方創生チーム&フリパラ編集部、一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ。中学をドイツ、高校をフランスで過ごしたのち、慶應義塾大学文学部人間科学専攻を卒業。ダイヤモンド社などでの書籍編集者を経て、2014年にフリーランスの編集&ライターとして独立。以降、子どもの長期休暇中に、自身の仕事を旅先に持っていく生活へ。現在、ワーケーション推進のための発信事業及び、親子ワーケーションの企画・監修や情報サイト「親子deワーケーション」の運営を通じて、仕事と子育てをどちらも大事にできる暮らし方を普及すべく邁進中。