インタビュー

ココママ 大島 恵さんにインタビュー

「魚津暮らし」を都市部の家族に体験してほしい。私がファミリーワーケーションを受け入れた理由

富山県内で屈指の漁場として知られる魚津市は、地名が表す通り、魚に恵まれた場所。魚の種類も量も豊富で、「釣りが気軽に楽しめる場所」と、県外から家族でワーケーションとして来訪する人たちを受け入れる事業を営む大島恵さんは語ります。

 

もともと大島さんは、東京でフード・コーディネーターとして働いていましたが、2017年2月に神奈川県藤沢市から、夫の転職に伴い魚津市に移住。同年9月に夢だったオーダーメイドのマカロン専門店「ココマカロン」を開業し、今ではネット販売含めて月に300件以上、5000個以上売れる人気店になっています。

 

人気店ゆえ、さぞ忙しい日々を送っていると思うのですが、コロナ禍でワーケーション事業にも着手した大島さん。家族単位で受け入れるファミリーワーケーションを始めようとしたきっかけややりがいなど、詳しく聞きました。

 

 

大島恵(おおしま・めぐみ)さん/

茨城県生まれ。都内の大手メーカーでフードコーディネーターの仕事に従事したのち結婚。2017年に夫の出身地である魚津市に移住し、自宅新築に合わせて夢だったマカロン店「ココマカロン」https://cocomacaron.thebase.in/を起業。マカロン店の経営のほか、フリーランスのママを支援する活動やファミリーワーケーションを受け入れる地域活性化事業の「ココママ」https://cocomama-toyama.com/を運営する。男の子2人の母。

 

 

園庭が広く、海も山も近い。子どもがのびのび遊べる環境が魚津にはある

全国から魚津に来訪してくれる親子を対象に、2021年から「ファミリーワーケーション」のプログラムを実施しています。平日の日中、親がコワーキングスペースでテレワークする間、子どもは保育園や児童センターで過ごすほか、休日は親子でSUPをしたり、釣りをしたり。魚おろし体験や魚市場で朝に行われるセリを見学するなど、漁港らしい暮らしを身近に感じることができます。

 

 

プログラムでこだわっているのは、参加者に「出会い」を提供すること。旅に彩りを与えるのは、やはり人との出会い。私もこれまで多くの土地を旅してきましたが、それぞれの土地での人との出会いは忘れられません。

 

そこでプログラムでは、富山で子育てをしている「ホストファミリー」が参加者を家族のように迎え入れ、滞在をサポートします。魚津では私自身がホストファミリーとなり、参加者の家族と一緒にサビキ釣りをしたり、郷土料理の押し寿司を作ったり、おすすめの温泉に連れて行ったりしています。

 

 

魚津から始まったこの「ファミリーワーケーション」。現在、富山の他の地域でも継続的に受け入れていけるように準備中で、ゆくゆくは4地域へと広がっていく予定です。「仕事をしながら、自然豊かに暮らす」ワーケーションの理想の過ごし方は家族ごとで異なるもの。その点、それぞれにホストファミリーがつく「ファミリーワーケーション」は、各家族の希望に合ったプランを提供しやすいのが魅力だと思っています。

 

 

都会で過ごしている家族には、コンクリートジャングルの中で生活し、ビルの一室の保育園に子どもを通わせているという親子も少なくありません。

一方、魚津の保育園は園庭が広く、子どもをのびのびと遊ばせることができます。また海と山が近いので、いつでも自然の中で遊ぶことができる。「保育園に迎えに行った後に海で釣りができるなんて、考えられない」。都会から来た親子からは、そんな驚きの声も聞かれます。

 

 

移住者だから気づく、子育てしやすい魚津の魅力

私が魚津でファミリーワーケーションのプログラムを実施しようと思ったきっかけは、かつて神奈川県藤沢市で子育てをした経験でした。藤沢は都心の郊外ですが、それでも人は多い。保育園は待機児童問題が深刻で、入園させるのも一苦労。ようやく入園できても、保育料は月額9万円と高額でした。

 

しかも保育園から向かう最寄り駅の駐輪場は、みんなが先回りして予約しているから5年待ち。小学校の学童保育も子育て支援センターの遊び場も、すべてが予約制で、何をするにも競争、競争…。少子化と言われているのに、街に子どもを受け入れられている気がしませんでした。「こんな環境では、子どもは1人以上作れない」。そう感じました。

そこで主人の転職を機に、夫の実家がある魚津に引っ越しました。藤沢と比べて、なんて子育てしやすい街なんだろう。それが魚津に最初に抱いた印象です。

 

 

魚津は道が広くて交通量も少ないので、子連れで歩きやすい。藤沢に住んでいるときは道が細く、しかも路線バスが走っているので、いつも事故を恐れながらベビーカーを押して歩いていました。それに保育園の待機児童がゼロで、0歳児から入園可能。遊び場もたくさんあるし、順番待ちもない。魚津は子どもに優しい街なんです。

 

 

ライフスタイルによって変化する女性の働き方

私は常々、「ママはシンデレラ」だと言っています。時間が来たら、シンデレラは日常に戻らないといけないように、ママも仕事のタイムリミットがある。保育園のお迎え時間の18時にはママに戻らないといけないため、独身時代のようにキリのいいところまで残業したり、ガムシャラに働いたりすることができない。

私自身、2人の子どもを産み育てるなかで、女性はライフスタイルによって、生活が一変するという事実を受け入れながらも、こういう社会を変えていく手段を模索してきました。

 

 

そんな思いから、立ち上げた地域活動が「ココママ」でした。ちょうどオーダーメイドのマカロン専門店「ココマカロン」を開業した後でしたし、2人目を出産した直後でもあったため、大変な時期ではありましたが、自分が子育てに優しいと感じたこの魚津を、もっと子育てしたくなる街にしたいと思いました。

 

 

ココママでは、「どんな環境だったら赤ちゃんを産みたくなるか?」を話し合う「赤ちゃん会議」を始め、様々なイベントを行ってきました。そんな頃、知ったのがワーケーションという働き方です。たまたま共に活動している仲間が、魚津の移住コンシェルジュをやっており、「家族でワーケーションできるプログラムがあったら、魚津の魅力も伝えられるし、共働き家族の助けにもなるね!」と盛り上がり、そこから2ヶ月後にはプランが完成。今までココママの活動を通して出会った地元の人たちの協力を得られたのが大きかったですね。

 

 

「こういう子育てがある」って知ってもらいたい

ワーケーションでは、親が仕事をしている間、子どもがどう時間を過ごすかが課題となりますが、魚津では、地元の保育園が一時預かり制度を利用して預かってくれると快諾してくれたり、家族で長期滞在しやすい一棟貸しの宿があったり、リモートで働けるコワーキングスペース等の仕事場所が複数あったのも幸いでした。

 

今夏は5組の家族が参加。去年、母子の2人で来た家族が、今年は父親も加わって3人で来てくれるなど、リピーターも目立つようになりました。3回目のリピーターの家族もいて、子どもに「夏休みどこ行きたい?」と聞いたら、すぐに「魚津!」と答えてくれたと聞いた時は感動しました。

 

 

隔週で受け入れている魚津でのファミリーワーケーションですが、ありがたいことに、冬期休暇中や春期休暇中はすぐに埋まり、他の日程も残りわずかとなっています。普段と違う環境で1週間「暮らす体験」をすることで、「こういう子育てがあったんだ」と感じてもらい、大人たちが子育てや人生を見つめ直す機会になったら嬉しいです。

 

そして、子どもたちには幼少期の楽しかった思い出の場所として、富山が刻まれたら嬉しいです。時々遊びに来たり、将来自分が大人になった時に子どもと一緒に再訪したり……。そういう長い関係性が続いていくのが理想ですね。

 

 

※取材は2023年8月です。

記事の制作に関わった方をご紹介

集者・ライター:児玉真悠子(こだま・まゆこ)

編集者・ライター、株式会社ソトエ代表取締役、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・ フリーランス協会 地方創生チーム&フリパラ編集部、一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ。中学をドイツ、高校をフランスで過ごしたのち、慶應義塾大学文学部人間科学専攻を卒業。ダイヤモンド社などでの書籍編集者を経て、2014年にフリーランスの編集&ライターとして独立。以降、子どもの長期休暇中に、自身の仕事を旅先に持っていく生活へ。現在、ワーケーション推進のための発信事業及び、親子ワーケーションの企画・監修や情報サイト「親子deワーケーション」の運営を通じて、仕事と子育てをどちらも大事にできる暮らし方を普及すべく邁進中。