インタビュー

「藍染め屋aiya」南部 歩美さんにインタビュー

富山発の藍染めで、美しい棚田の風景が残る里山を守りたい

富山県富山市で生まれ育ち、高校を卒業以降、大阪、京都、オーストラリアなど国内外を転々として暮らしてきた南部歩美さんが、富山県に戻り、魚津市で暮らし始めたのは29歳の時。夫の実家がある同市に住んで、本格的に始めたのが、藍染めでした。

 

当初は夫の実家のガレージで藍染めをスタートし、その後、魚津市の中山間地にある人口150人ほどの小さい集落「鹿熊(かくま)」に、自宅兼作業場の「藍染め屋aiya」を開設。今では自身で藍染めをするだけでなく、ワーケーション目的の来訪者などに藍染め体験を提供したり、藍染めを通じた地域活性化プロジェクトなどを行ったりしています。

 

南部さんが考える藍染め体験の魅力、地域活性化への思い、ワーケーションを受け入れる立場として感じることなどを詳しく伺いました。

 

 

南部歩美(なんぶ・あゆみ)さん/子育てをしつつ、2015年夏から藍染めの活動を開始。2018年冬に自然豊かな魚津市鹿熊の古民家へ移住し、藍染めや里山での暮らしの魅力を多くの人に発信している。こだわりの「天然灰汁(あく)発酵建て」は江戸時代から続く伝統技法による藍の染色方法で、薬品を使わずに自然素材だけで色を出す。

 

旅先での出会いは宝物。自分もそんな出会いを提供したい

私の作業場「藍染め屋aiya」には今、地元の人や観光客だけでなく、ワーケーション目的で富山に来訪した方々が訪れてくれます。私自身、これまで国内外の各地を訪れましたが、ワーケーションという選択肢ができたことで、仕事をしながらでも出かけやすくなったと感じています。

 

 

私はこれまで全国の旅先で普段接しないような人たちと出会い、日常では気づかないような価値観に、はっと気づかされてきました。旅先での出会いは宝物。藍染め体験をできる私の作業場も、そんな出会いを提供できる場所になればいいなと思っています。

 

私が藍染めを始めたきっかけは、旅先の北海道で藍染め体験に参加したことでした。その体験を忘れられず、徳島で募集していた藍染め研修に参加。そこからどんどん藍染めにのめり込み、次第に藍染めを仕事にしたいと考えるようになりました。

 

 

思い返せば、原点は北海道での藍染め体験にあるのですよね。たった一度の体験が、その後の人生を変えるきっかけとなる。だからこそ、鹿熊に来てくれた人には、藍染め体験に限らず、普段できないような体験をしてほしいと思っています。

 

 

耕作放棄地を活用した「つなぐプロジェクト」

2020年に鹿熊の地元住民の協力のもと始めた「つなぐプロジェクト」は、都市部で暮らす人々も一緒に「普段できないような体験」を提供し、つながりを生み出す場です。耕作放棄地を使って、藍染めの原料となるタデアイの栽培をするのですが、栽培の過程で鹿熊の自然を全身で感じることができます。過去3年間で、苗植えや刈り取りなどの作業を延べ200人以上がサポートしてくれました。プロジェクトの仲間は今や県外にも広がっています。

 

 

鹿熊は山間地で、耕作放棄地となっている土地はもともと稲作使われていた土地。正直タデアイの栽培に向いている場所ではありません。陽が当たる時間は短いし、土壌の水はけも悪い。

でも、この土地で暮らすうちに、鹿熊の美しい棚田の風景を残したい、この土地の暮らしを途絶えさせたくない、そんな気持ちが募っていきました。地域に根差したビジネスを作り、地域貢献がしたい。そのように思ったことが、耕作放棄地を活用してタデアイを栽培するようになったきっかけでした。

 

 

幸いタデアイは生命力が強く、農業初心者でも育てやすい。それでも、自分たちが育てたタデアイを用いて、ようやく藍染めができるようになったのは、栽培を始めてから3年目でした。


とはいえ、まだ自給できている染料は5割ほど。近い将来100%自分達で育てた染料で仕込んだ藍染めをたくさんの方に届けるのが目標です!!

 

 

大人も子どもも目を輝かす「藍染め体験」

野菜などの食料を育てて食べる体験をした人は多くいますが、染料になる植物を育てたり、何かを染めたりする経験はしたことがないという人がほとんど。そうした人たちに、藍染めを体験してもらって、その魅力を肌で感じてもらいたいと思いました。実際、初めて藍染め体験する参加者からは、いつもワクワクした気持ちが伝わってきます。

 

 

子どもは素直なので、染料が入っている甕(かめ)に近づくと「くさ!」と、梅干しを食べた時のように顔をしぼめる子もいます。最初は、「臭いからやりたくない!」と参加を拒む子も中にはいますが、思い切って参加すると、白い布が黒っぽくなったり、ぎゅっと絞ると緑色が見えてきたりして、次第に色の変化の過程を楽しむようになってきます。

 

ビー玉を輪ゴムでくくってみたり、麻でぎゅっと縛ったり。それぞれの工程は小さなお子さんでも簡単にできる作業ですが、次第にハンカチや手ぬぐいに模様ができていきます。このように参加してくれた人が五感をフルに使い、楽しんで制作している様子を見ることが、私はたまらなく好きなんです。

 

そうして、この世に一つだけの藍染めアイテムが出来上がる。唯一無二のオリジナル作品を作れることが、藍染め体験のいちばんの醍醐味だと考えています。よそでは絶対に買えないですからね。

 

 

コロナ禍で、体験会に変わるビジネスを考案

やりがいだった藍染め体験の対面型のイベントは、コロナ禍で全て中止することを余儀なくされ、どうやって藍染めの魅力を伝えたらいいのか悩んだ時期もありました。

 

その時に思いついたのが、「染め替え」のサービス。新しいものを生み出して消費してもらうという、従来の一方通行のイベントではなく、お客様がすでに持っている衣服などを預かって、藍色に染めて返却するサービスです。これならコロナ禍でも、藍染めの魅力を伝えることができると考えました。

 

利用者の中には、「すごく気に入っている洋服があったが、襟ぐりが黄ばみ、格好悪くて着ることができなかった。でも捨てるのはもったいなかった」と悩んでいた方がいました。

 

 

そうした服も、藍染めをすることで、新たな魅力を持つ洋服に生まれ変わらせることができます。しかも、私が用いている藍染めのやり方は江戸時代から続く伝統技法。化学薬品を一切使用しておらず、身体にも環境にもやさしい染色法です。加えて、鹿熊でのタデアイの栽培には農薬一切使っていません。

 

 

ですから、「藍染め屋aiya」の染め替えサービスは、洋服を再利用するうえに、染色方法まで地球環境に配慮したサービスと言えます。この「染め替え」が当たり前の選択肢として認知されるようになるように、しっかりと育てていきたいですね。

 

ようやくコロナ禍が落ち着き、徐々に藍染め体験の参加者を受け入れることができるようになりました。富山では、藍染め体験ができる施設がうち以外ほとんどないのが現状。ですから、参加希望の声も多くいただいています。

 

 

藍染め体験を希望される際は、ホームページの問い合わせフォームから希望日をお知らせ下さい。「何曜日が体験の日」と空けているわけではありませんので、相談しながら体験日を調整できたらと思っています。

 

 

ハンカチや手ぬぐいなど簡単な染め物であれば1.5〜2時間で終わりますので、ぜひ多くの方にお気軽に参加いただけたら嬉しいです。

 

 

※取材は2023年8月です。

記事の制作に関わった方をご紹介

集者・ライター:児玉真悠子(こだま・まゆこ)

編集者・ライター、株式会社ソトエ代表取締役、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・ フリーランス協会 地方創生チーム&フリパラ編集部、一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ。中学をドイツ、高校をフランスで過ごしたのち、慶應義塾大学文学部人間科学専攻を卒業。ダイヤモンド社などでの書籍編集者を経て、2014年にフリーランスの編集&ライターとして独立。以降、子どもの長期休暇中に、自身の仕事を旅先に持っていく生活へ。現在、ワーケーション推進のための発信事業及び、親子ワーケーションの企画・監修や情報サイト「親子deワーケーション」の運営を通じて、仕事と子育てをどちらも大事にできる暮らし方を普及すべく邁進中。