インタビュー

前田薬品工業株式会社 前田大介さんにインタビュー

「キュア」から「ケア」へ 製薬会社の新しい挑戦

「くすりの富山」と呼ばれるほど、医薬品産業が盛んな富山県。特色ある製薬会社もたくさん存在しますが、製薬会社とだけ聞くと、お堅いイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する前田大介さんが社長をつとめる「前田薬品工業株式会社」は、世間の印象とはちょっと違うかもしれません。

製薬会社としては前衛的な働き方を推進をするほか、立山町の原風景とハーブに囲まれたヴィレッジ「Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)」をオープンさせるなど、その多様な取り組みが全国から注目されています。

働き方や価値観が大きく変化するニューノーマルの時代。自分の働き方に悩んでいる人や、経営者の皆さんにとって、前田さんのお話はとっても参考になりそうです。今回は、社員と前田さん自身の働き方について伺いました。

 

 

 
前田大介(まえだ・だいすけ)さん/富山県上市町出身。同志社大商学部を卒業後、会計事務所勤務を経て、29歳で前田薬品工業株式会社に入社。34歳で代表取締役社長に就任。
 

製薬会社では類を見ない多様な働き方を推進

前提として、大量生産・大量消費の時代に作られてきたビジネスモデルは、2100年に向けて間違いなく衰退していくと思っています。それは、私たち製薬会社も例外ではありません。

これからの100年を考えた時に、一つの産業、一つの会社に帰属して、時代がガラッと変わったときに「自分はこれしかできない」という人は厳しいなと。前田薬品工業として、いわゆるマルチタスクを同時にこなせる人材を育てていきたいと思って、グループ企業内での副業を解禁しました。

 

また、新卒一括採用も昨年から廃止しました。前田薬品工業には、学歴関係なくバリバリ仕事している人がいます。実力主義で評価していくときに、新卒で給料いくらです、というのは違うかなと思ったのが廃止の理由です。一年を通して、高校生や大学生はもちろん、社会人、さらにはおじいちゃんおばあちゃんまで、誰でもウェルカムですよ。

 

社員のなかには、グループ会社の株式会社GEN風景で働くスタッフもいる。

 

あと、女性が多い会社なので、子育てや介護のために働きやすい環境をベーシックで作るようにしています。有給休暇の取得率は90%。産前産後の育児休暇も長くとれるようにしています。定年も60歳から65歳に引き上げたのですが、いずれは撤廃する予定です。

これらをすることでどんなメリットがあるのか、同時にどんなリスクあるのか。社員にちゃんと説明した上で、ダメだったら戻せばいいと思っています。「とりあえずやってみよう」精神は溢れている会社ですね。

 

全国各地を飛び回っていた20代。自身の経験から「ワーケーション」に思うこと

僕自身、会計事務所に勤めていた20代の頃から旅しながら働いていました。もちろん「ワーケーション」という言葉が出てくる前のことです。週に1回オフィスに行くくらいで、あとは資料を持って全国各地を飛び回って、行った先でおいしいものを食べたり、温泉に入ったり、素敵な景色を見たり……。

それが「おいしかったな」とかで終わったらダメなんですが、僕はいずれ社長になりたいと思っていたので、出会うモノやコトを経営目線で見るようにしていました。それが勉強にもなったし、今にも生かされていると思います。

企業がまずワーケーションを推進するときは、まずトップや幹部がオフィスにずっといるのをやめるべきだと思います。トップが背中で見せて、社員と一緒に「どっか旅行行って仕事するぞ」くらいの感じでいれば、社員も働く=楽しいと思ってくれるんじゃないかと思います。

旅を通して新しい環境に出会ったり、違う業種のいろんな人と関わることは、必ず仕事にもいかされるはずです。

 

 

 

予防医学の観点から広がっていった『Healthian-wood』の構想

2020年、立山連峰のふもとに位置する富山県立山町に「Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)」をオープンしました。もともとは、こんな大きいことをやろうと思っていたわけではないんです。

前田薬品工業は、皮膚の不調を直す塗り薬や貼り薬をつくっている会社です。でも、そもそも不調にならないようなサービスを提供したり、ライフスタイルをプロデュースできる会社になりたいという思いがありました。

そこで着目したのがアロマオイルです。僕自身、社長就任して心身共に疲弊していたときに、アロマオイルに助けられた経験がありました。ヨーロッパでは医薬品として扱われることもあるのですが、日本の製薬会社740社のうち、アロマオイルを抽出している会社はない。自分たちがアロマオイルを抽出をして、それを使ったスキンケア商品を作ろうと思ったのがはじまりでした。

 

アロマオイルの抽出工房。目の前には田園風景が広がる

当初はアロマオイルの抽出工房とハーブ園だけを作る予定だったんですが、せっかく立山町に来てもらうんだから、ハーブを使った食やトリートメントも体験してもらって、最終的には泊まってもらおうという話になって。

建築家・隈研吾さんともご縁があって、富山県の伝統的な散居村のように、このような点在型のヴィレッジになっていきました。

 

前田さんが県内約200箇所を周り、ようやく見つけた原風景のある場所

 

 

ワーケーションもできる宿泊施設がオープン予定

「Healthian-wood」では、今後サウナホテル(2021年8月オープン予定)やヴィラ(2022年冬オープン予定)といった宿泊施設がオープンします。

ワーケーションへの対応もちろん考えています。もちろん普段のお仕事をするのもいいんですけど、単に宿を貸すだけではない対応を、要望に応じて考えていきたいです。

たとえば、狭くて深いテーマのある課題を与えたワークショップをするとか。来てもらった人のスキルや感度が上がるようなコンテンツを用意していきたいですね。実際に2021年3月末には、薬剤師限定のワーケーションが「Healthian-wood」で開催されます。

ワーケーションで富山に来る人には、まず「富山県【立山博物館】」に行ってほしいです。ここで富山の食や自然がどのようにできているかを知ってから富山の旅をスタートすると、見る景色が変わって、富山の旅の価値が上がるんじゃないかと思います。

 

これからも世界各地で、旅しながら働いていく

僕自身、前田薬品工業の社長に就任した当初から「50歳までには次の社長にバトンを渡す」ということを全社員の前で宣言しています。そのビジョンは今も変わっていません。

50歳からの夢としては、「おでん屋」をやりたいんです。店を構えずにリヤカーを引きながら、海外半分、日本半分くらいでやるのが理想ですね。僕自身も、旅しながら働くことをずっと続けていきたいと思います。

 

※取材は2021年2月下旬です。